坂道や高速道路の減速時、「エンジンブレーキを使え」と言われた経験はありませんか?
しかし実際には、「エンジンブレーキってどう使うの?」「壊れたりしない?」と戸惑う人も少なくありません。
じつは、エンジンブレーキは正しく使えばブレーキの負担を減らし、安全性と燃費の向上に役立つ優れた技術なのです。
この記事では、エンジンブレーキの基本的な仕組みと正しい使い方、そしてよくある勘違いについて、AT車とMT車の違いも含めて分かりやすく解説していきます。
エンジンブレーキの基本とは?
エンジンブレーキとは何か?
エンジンブレーキとは、アクセルを離すことでエンジンの回転抵抗を利用して車の速度を落とす仕組みのことです。
ブレーキペダルを踏まなくても自然と減速するため、急な下り坂などで効果を発揮します。
通常のブレーキ(フットブレーキ)はタイヤに直接ブレーキパッドで摩擦をかけて減速しますが、エンジンブレーキは車の動力伝達の逆回転を利用して、間接的に減速するためブレーキ系統への負担が軽減されます。
AT車とMT車での違い
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MT車(マニュアル車)
シフトダウンすることで、より強いエンジンブレーキがかかります。たとえば、5速→3速とギアを落とすとエンジンの回転数が上がり、車がぐっと減速する感覚になります。 -
AT車(オートマ車)
通常はアクセルを離すと自動的に軽いエンジンブレーキがかかりますが、より強く効かせたい場合は「L」「2」「S」などのシフトモードに切り替えるとよいでしょう。最近ではマニュアル操作ができる「マニュアルモード」付きのATも多くなっています。
エンジンブレーキが有効な場面
エンジンブレーキは、以下のような場面で特に有効です。
下り坂での減速・速度維持
長い下り坂では、フットブレーキだけに頼るとブレーキが過熱し、「フェード現象(ブレーキが効かなくなる状態)」を引き起こす危険があります。
エンジンブレーキを併用することで、ブレーキへの負担を減らし、安定した減速が可能になります。
渋滞中や信号の手前での減速
アクセルを離して自然に減速することで、ブレーキ操作が減り、同乗者にも優しいスムーズな運転になります。
前方の信号が赤になったのを確認したら、すぐにアクセルを戻すことで、無駄な加減速を防ぐことができます。
雨や雪など滑りやすい路面
急ブレーキはスリップの原因になりますが、エンジンブレーキはタイヤの回転を止めずに減速できるため、より安全に速度を落とせます。
特に冬場の凍結路では、エンジンブレーキをうまく使うことが重要です。
実は危ない?やりがちな“エンジンブレーキの勘違い”
エンジンブレーキは便利で安全な減速方法ですが、間違った使い方をしてしまうと、逆に危険だったり車に負担をかけたりすることがあります。
勘違い①:「ギアを一気に2段・3段落とすとよく効く」
確かにギアを下げるほどエンジンブレーキは強く効きますが、急激にギアを落とすとエンジンの回転数が急上昇してしまい、エンジンに大きな負担がかかります。
MT車の場合は「ブリッピング(回転数合わせ)」を行うなどの高度な操作が必要ですが、AT車ではシフトレバーで1段ずつ落とすのが基本です。
勘違い②:「AT車はエンジンブレーキが使えない」
そんなことはありません。AT車でも、アクセルを戻せば自動的にエンジンブレーキが作動しますし、マニュアルモード付きの車種ならギア操作によってより強い制動も可能です。
また、シフトレバーの「D」から「2」や「L」に切り替えることで、坂道などでは効果的に活用できます。
勘違い③:「停止直前までエンジンブレーキに頼ればブレーキを踏まなくていい」
完全停止には必ずフットブレーキが必要です。エンジンブレーキだけでは止まりません。
また、エンジンブレーキに頼りすぎると、後続車にブレーキランプが点灯せず、追突のリスクが高まります。
勘違い④:「ニュートラルに入れたほうがエンジンに優しい」
実際は逆です。ニュートラルにするとエンジンブレーキが働かず、ブレーキに過度な負担がかかります。
また、最近の車はアクセルオフ時に燃料供給がカットされる設計なので、ギアを入れたままの方が燃費にも良いケースが多いのです。
エンジンブレーキを上手に使うコツ
正しくエンジンブレーキを使えば、安全性の向上やブレーキの負担軽減、燃費の改善にもつながります。以下のポイントを意識してみましょう。
アクセルオフのタイミングを意識する
エンジンブレーキは、アクセルを離すだけでも作動します。
特に長い下り坂では、早めにアクセルを戻し、エンジンブレーキでじわじわ減速するようにするとブレーキの利きを温存できます。
AT車でも積極的にシフトダウンを使う
多くのAT車には「2」や「L」、あるいはマニュアルモードが用意されています。
下り坂やカーブの手前では、あらかじめ低めのギアに入れておくと安定した減速が可能です。
カーブや交差点の手前では活用を
カーブや交差点でフットブレーキだけに頼ると急ブレーキになりがちです。
エンジンブレーキでスピードを調整しておけば、スムーズな進入ができ、横滑り防止にも役立ちます。
ギアの選択は状況に応じて
平地では通常どおりの「D」で問題ありませんが、長い下り坂では「2」や「L」に入れて減速力を補助しましょう。
ただし、スピードが出ている状態で急にギアを落とすと車が大きくガクつくことがあるので、無理のない範囲で段階的に使うのがポイントです。
エンジンブレーキを使うときの注意点
エンジンブレーキは便利な減速手段ですが、使い方を間違えると危険な場面もあります。以下の点に注意しましょう。
急なシフトダウンは避ける
AT車でもMT車でも、スピードが出ている状態で急に低いギアに入れると、強いエンジンブレーキがかかって車が大きく減速し、後続車に追突される恐れがあります。
→ 減速しながらギアを落とす「段階的なシフトダウン」が基本です。
路面状況によっては逆効果も
雪道やアイスバーン、濡れた路面では、エンジンブレーキでもタイヤのグリップが失われ、スリップの原因になることがあります。
→ そうした場合は、ブレーキもエンジンブレーキも「優しく・ゆっくり」効かせることが大切です。
高速道路での過信に注意
エンジンブレーキはあくまで「補助的な減速手段」です。
急停止が必要な場面では、フットブレーキがメインになります。
→ 高速道路では、エンジンブレーキを過信せず、ブレーキとの併用が鉄則です。
ハイブリッド車や電気自動車では使い方が異なる場合も
一部の車種では、エンジンブレーキに相当する「回生ブレーキ」の仕組みがあります。
この場合、アクセルオフだけで強い減速が起こることもあるため、慣れが必要です。
→ 自分の車の特性をマニュアルや実走行で確認しておくと安心です。
まとめ:エンジンブレーキを正しく使って安全運転
エンジンブレーキは、「燃費向上」「ブレーキの負担軽減」「安定した減速」を実現できる便利な機能です。
特に長い下り坂や信号の手前では、フットブレーキと併用することで車のコントロールがしやすくなります。
ただし、以下の点には注意が必要です。
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急なシフトダウンはNG(後続車に注意)
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雪道や濡れた路面では慎重に使う
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AT車やハイブリッド車では仕様を理解しておく
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あくまで補助的手段、フットブレーキと併用が基本
運転に慣れていない方でも、エンジンブレーキの使い方を理解しておくと、運転の安心感が大きく変わります。
普段のドライブでも、少しずつ取り入れて感覚をつかんでいくのが上達の近道です。